毎日新聞7月23日
クリックすると拡大画像になります
                  毎日新聞7月23日(日)掲載

闘病中の人にもおしゃれを

 ◇起業なんて考えたこともなかった

 私の知っている女性起業家は「いずれは起業したい」と長年考え、勉強を重ねて、夢を実現した人が多いようです。でも、私は主婦歴が長く、起業なんて考えたこともありませんでした。
 短大を卒業して1年後に結婚し、すぐに子供にも恵まれたので、子供のPTA活動や、地域のボランティアに積極的にかかわる毎日でした。02年に夫が会社を辞め、起業したので、仕方なく経理などを手伝い始めましたが、パソコンを習ったり大変でした。

得意の裁縫を生かして

 そんな私の1つの転機となったのが、約10年前、夫の母ががんと診断されたことでした。とても気が合い、実の母のように慕っていたので、ショックでした。
 そして闘病が始まると、抗がん剤の影響で、髪があっという間に抜けてしまいました。おしゃれな母だっただけに、とても落ち込んだようでした。カツラも試してみたのですが、夏場は蒸れるし、髪が全くないので、すぐズレ落ちそうになってしまうのです。何か力になれないかと考えて、思いついたのが、私が得意の裁縫で、母愛用のスカーフを帽子に作り直すことでした。母はとても喜んでくれました。それが現在手がけている「バンダナ帽」の原型になりました。

 ◇予想以上の好評に驚き

 参加型医療の実現を目指して活動している友人にたまたま、その帽子の話をしたら、入院患者用のパジャマの試作を頼まれました。検査、点滴などを考えて機能的なのはもちろんですが、母の看病の経験から、闘病中の人でも、おしゃれを楽しんでほしいと思い、元気が出るように明るい黄色の布地で作ってみたのです。
 03年に開かれた「国際モダンホスピタルショウ」という展示会に出品し、予想以上に好評で驚きました。患者の思いに寄り添った商品に対するニーズを肌で感じ、「自分でも役に立てるのなら」と思うようになったのです。

 ◇患者の意見反映のため飛び込みで病院へ

 その後、とりあえず帽子に商品を絞り、夫の会社内に事業部を作りました。でも、すぐに商品化できたわけではなく、ボランティアで知り合った友人に手伝ってもらいながら、改めて改良を加えました。決めたからには少しでも患者に喜ばれる商品にしたかったので、病院に飛び込んでは協力をお願いし、患者の人たちの意見を反映させました。今も色や素材など、少しずつ進化しています。

 ◇初心を忘れずにモノづくりを

 もっとほかの商品にも手を広げたり、利益が上がるように安い素材を使ったらという意見も聞くのですが、私は帽子をいうニッチ(すき間)商品にこだわっていきたい。夢は、このバンダナ帽を世界に広げていくことです。
 商品の代金を振り込む際、振込用紙に多くの人が「ありがとう」などのメッセージを書き添えてくれているんです。それを読み、いつも励まされます。初心を忘れずに、病室のベッド目線でモノづくりをしていきたいと思っています。